久しぶりに、映画に関して書いてみます。
ちょっと話題は遅くなりましたが、先月オスカーを受賞した「スラムドッグ・ミリオネアー(Slumdog Millionaire)」を観る機会がありました。
実は私的に、「ベンジャミンバトンの数奇な人生」が穫るかな〜と思っていたんですが、スラムドッグを見て、オスカー受賞に納得しました。もちろん両作品はすごく良い作品なので、機会があれば両作品を見てみて下さい。
「スラムドッグ・ミリオネアー」は、あの「クイズ・ミリオネアー」のインド版にひょんなことから出演したスラム街出身の青年が、史上初めて1000万ルピアーの問題をクリアーしたところから始まります。
スラム街出身の青年が、他の有識者を出し抜いて1000万ルピアーの問題まで答え続けれるはずはないと、警察に拘束されて尋問されて行きます。それを通じて、少年が、たまたま出題された問題たちが、自分のスラム街での差別や迫害、ギャングとの抗争を通じ得た経験によって知っていただけだというところから始まります。
結構グロテスクなシーンがあるので覚悟して観てもらいたいですが、7年前のブラジル映画の「シティーオブゴッド (City of God)」
○City of God日本公式サイト
http://cityofgod.asmik-ace.co.jp/
シティ・オブ・ゴッド[DVD]
と方向性は似ています。シティーオブゴッドも、ブラジルのスラム街を舞台にした青年とギャングとの抗争を描いた青春映画です。ブラジルの映画各賞を総なめし、アカデミー賞にも何部門かにノミネートされました。
○ハリウッド映画の7年の変化?
実は、この2作品、いろいろな共通点があります。
1.両作品とも青年の成長を中心に描いている
2.両作品とも子供の虐待や殺し合いを描写している
3.両作品とも制作者は海外主体
です。特に注目したいのは、制作者の部分です。
「シティーオブゴッド」は、プロデューサーはアメリカ人、制作費はブラジルとフランスから出ています。
「スラムドッグ」の方は、監督がイギリス人、制作プロダクションもイギリスです。
つまり、両作品とも非常に良く似ているんですが、「シティーオブゴッド」はオスカーにノミネートされただけ。
オスカー受賞の明暗を分けたのはなぜでしょうか。
○「スラムドッグ」にあって「シティーオブゴッド」になかったもの - 言葉
まずは、言語です。
シティーオブゴッドは前編ポルトガル語でしたが、スラムドッグは、本編の7−8割が英語です。これは、インド人が元々イギリスの植民地で多民族国家だったこともあり、学校の授業はほとんど英語で行われています。なので、インド人は英語がしゃべれるというのがあります。
実際に、映画の公開がアメリカで開始されたのは、昨年の11月。全米で10館ほどしかありませんでした。
しかし、人気はどんどんと上がり、オスカーの前の週から2000スクリーンを超え、オスカー受賞後は3000スクリーンに達し、映画の興行収入も全米1位になってしまいました。アメリカだけで興行収入が100億円を超えてしまったのです。超ロングランの記録です。
これには、映画の大半が英語である事実は否めません。
○親しみのある題材
そして、アメリカでも親しみのあるクイズ番組「クイズ・ミリオネアー」が題材です。
しかし、インドのスラム街の青年の話です。
親しみと新しさのバランスが絶妙ですね。
シティーオブゴッドは、全編ポルトガル語。そしてブラジルの生活だけですから親しみは具合から負けていますね。
○監督・制作会社がイギリス人
監督は、イギリス人の監督、Danny Boyleでした。オスカー監督賞も受賞しましたね。
イギリスでは、6年前に、
○ベッカムに恋して
http://www.albatros-film.com/movie/beckham/
ベッカムに恋して [DVD]
という映画が大ヒットしました。これはイギリスに住むインド人のサッカー好きの少女がプロサッカー選手として成長して行くという青春映画ですが、植民地だったインドから、たくさんのインド人が移民として生活しているイギリス。
インドの映画産業はすごく活発ですが、インド国内に限定していました。しかし最近になって、イギリス在住のインドの映画関係者の影響が大きくなって来たというタイミングも見逃せません。
イギリスが制作会社で、監督がイギリス人。そして「クイズ・ミリオネアー」もイギリスが発祥です。
インドの事を良く分かって、しかも世界に通じる英語での映画を作る事が出来たイギリスだからこそ出来た成果でもあると思います。
○音楽によるマーケティング
そして、私が今回、オスカー受賞にめちゃくちゃ貢献したと思っているのが、ここです。
私が過去何回も取り上げているロサンゼルスの公共ラジオ局、KCRWが、映画の公開前から、スラムドッグのサウンドトラックを毎日のようにかけていたのです・・・というか、今でも結構流れています。
<参考記事>
○アメリカのNPO“ビジネス”から日本のNPOを考える
http://ja.katzueno.com/2008/04/583/
○英語の勉強にネットラジオを活用しよう
http://ja.katzueno.com/2008/10/857/
なんか、裏取引が会ったのではと思うくらいですが・・・実は、このKCRWというラジオ局、結構インドの音楽を、私が聴きだした10年以上前から流していました。
というか、ここのKCRWの音楽ディレクターをしていた方が、イギリス人の方。
http://www.nicharcourt.com
なんか、すごくパズルがうまく組み合わさって来ていますね〜。インド人の移民がたくさんいるイギリスで育った方がKCRWの音楽ディレクターであれば、インドの音楽を流しますよ〜。
そして、これはあくまでも私の推測ですが、KCRWはメンバーの寄付金から成り立つラジオ局です。
おそらく、KCRWに寄付をする人で、インド人の方が結構いらっしゃったのではないかと考えているのですが・・・って、そういえば、自分の周りでも数人、インド人で映画関係者でKCRWのメンバーいます・・・。
そして、このKCRW、ハリウッドの映画関係者が結構聞いています。なぜかとう言うと・・・。
○The Business
http://www.kcrw.com/etc/programs/tb
ハリウッド業界を中心に扱ったエンタメビジネス番組
○The Treatment
http://www.kcrw.com/etc/programs/tt
ハリウッドの有名人との対談番組
○Martini Shot
http://www.kcrw.com/etc/programs/ma
ハリウッドのプロデューサーが自ら語る裏側トーク番組
というふうに、ロサンゼルスでハリウッド関係者の多くが寄付者であるからこそ出来る、公共ラジオ局ならではのラインナップが揃っています。
ちなみに、各番組は、各ページから今でも視聴する事が出来ます。最近面白かったと思ったのが、2月23日に放送された、世界のメディア王、ロバートマードックの自叙伝を書いた著者の一とのインタビューを放送した“The Business”
○Rupert Murdoch, 'the Man Who Owns the News'...and a Lot of Hollywood
http://www.kcrw.com/etc/programs/tb/tb090223rupert_murdoch_the_m
内容は、世界のメディア王、ロバートマードックは、最近のMySpace買収、テレビや映画に進出していますが、それらは金のためであって、本当は新聞業界が一番大好き。という内容でした。
おっと、話は脱線しました。
とにかく、これほど、映画業界の人が聞いているラジオ局に、元々インドの音楽が結構流れている、音楽番組に「スラムドッグ」のサウンドトラックが連日のように流れているのです。
アカデミー協会の会員は、すべての映画を見てオスカーの投票します。
正直言って、面倒くさい作業です(とある知人曰く)。
仕事で忙しくても見なくては行けないので、負担になっている人もいます。
でも、ラジオ番組でサウンドトラックが連日のように流れ、英語で、しかも「クイズ・ミリオネアー」が題材の映画を見に行くのと、海外で数々の賞を受賞していても、事前資料が全然ない外国語で文化が違う映画を観るのとは、全然環境が違います。
以上の事から、「スラムドッグ」は、海外で制作された映画でありながら、他のハリウッドで作られた作品と同等の土台で争う事が出来た要因になっていると思うのです。
などなど、インド映画がなぜ、オスカーを受賞出来たかを書いて行きましたが、これは一夜にして成し遂げた偉業ではなかったのです。私は、オスカーは「ベンジャミン」が穫るかな〜と思っていましたが、「スラムドッグ」が賞を総なめにした事を耳にしたとき、あまり驚く事もなく納得してしまいました。
それは、インド人が何百年もの植民地政策でイギリスの支配下にいた事・・・。そしてそのインド人の影響がハリウッドに影響を与えている事。そしてKCRWのラジオ番組を10年くらい聞き続けていたからなんですね〜。
以上の事を書きましたが、所詮は良い映画を作れないと話になりません。
良い映画を作るというのは大前提ですが、以上のように、今までの長年の努力がこつこつと積み重なった集大成がこのような結果になったと思います。
というか、映画自体もかなり面白かったので、かなりおすすめです〜。
とにもかくにも、スラムドッグ関係者の皆さん、おめでとうございます〜。
<ハリウッド・オスカー関連記事>
○ハリウッド映画・ヨーロッパ・そして資金調達のヒミツ
http://ja.katzueno.com/2008/02/470/
○映画の投資の集め方(前の続き)
http://ja.katzueno.com/2008/02/472/
○日本インディ映画に未来はあるのか。スタジオとインディーの違い
http://ja.katzueno.com/2008/10/806/
○一足先に日本人がアカデミー賞を受賞
http://ja.katzueno.com/2008/02/437/
○今度は日本人メイクアップアーティストがアカデミー賞に
http://ja.katzueno.com/2008/02/445/
○ハリウッドで頑張っている日本人の紹介
http://ja.katzueno.com/2008/02/550/
○ロスでブレイク!日本人映画監督
http://ja.katzueno.com/2009/01/939/
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ロスと日本の映画とマーケティング日誌・アルケミスタの住人by Katz Ueno (株deerstudio)
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