オープンソースCMS「concrete5」の日本語版の翻訳を一人で始めたのが、去年の今頃。
Usagi Project という団体に所属し、「MyNETS」というSNSソフトの英語版を作成した次のプロジェクトで、リーダーのつじくにさんから「Katzさん、concrete5日本語版作ってみない〜?」と誘われたのがきっかけです。
そして、アメリカの開発元にメールを出すと、一週間後に向こうから返事が。「是非、日本語版を作って〜」との返事。
メールを2通ぐらいやり取りしただけで、私は「concrete5」という公認のホームページ制作ソフト日本語版を作るプロジェクトリーダーとなってしまいました。
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■ 「ソフトウエアの知識ゼロ」が「ソフトウエア開発者の一員」に
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今だから、懺悔をしますが、実は私、去年の今頃まで、本格的にソフトウエアの開発をした経験はありませんでした。
唯一、「Joomla」という、「concrete5」と同じようなサイト管理ソフトの運営をしたときに、若干の改造ができただけで、これらのソフトで使われているPHPというプログラム言語の知識は一切なし。
HTMLの知識と、初級のCSSの知識だけでした。
早送りして、1年後の今。concrete5の日本語版開発を通じで以下のことを学ぶことが出来ました。
・PHPプログラム知識
・ソフトウエア翻訳の知識
・インターネットサーバー管理
・MySQLデータベース管理
・セキュリティー管理
・SVN(グループでソフトを開発するときのシステムの1つ)
そして、技術のみならず、人とのネットワークも・・・
・世界中のWEB制作者との出会い
・昨年7月ポートランドに行き、発足メンバーと出会う
・日本の各地でいろいろな人との出会い
を得ることが出来ました。
ここで、1つ、告白します。
私は、今までずっと文系人間です。
高校も私立文系コース。
大学は映画学部です。
映画では、編集作業などにパソコンを使います。
しかし、私は、今まで、コンピューターに関して正式な教育を受けたことがありません。
あるといえば、大学の時に、単位稼ぎで受講したコンピュータ基礎。
マウスの使い方から学ぶクラスで、期末試験はワードで、パンフを作ること・・・。
しかし、当時、英語があまりしゃべれなかったので、英語の勉強がてら、良い経験になりました。
とにもかくにも、私のコンピュータに関する知識は、全て、独学で得たものです。
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■ 師匠の存在の大きさ
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一応、私にはパソコンで師匠と呼べる存在の人がいます。
彼は今、ミシガン州で・・・何をしているんだろう・・・
師匠から教わったことは、技術的な事はあまり学んでいなかったと思いますが、いろいろな経験を得ることが出来ました。
中古のDELLノートパソコンに、FedoraというUNIXのOSを入れたり、
ロサンゼルスの某データセンターに連れていってもらい「これ、◯◯(誰もが知っている会社)のサーバー」とか見せてもらったり・・・。
その他、ブログでは書けない、いろいろな武勇伝を教えてくれました。
ブログに書ける事(苦笑)で一番心に残った出来事があります。
5年前のある日、行きつけのコーヒー屋さんで、彼に出会います。
彼は、ノートパソコンを使って何かをしています。
「何してんの〜?」と私が聞くと・・・
「タイムカードシステムを自作してる」・・・とのこと・・・。
彼が当時働いていた会社は、西欧のサーバー系のソフトウエア会社で、勤務体制は完全フレックス制。
作業はすべて、ノートパソコンの端末などで会社のサーバーに接続して行うので、ミーティングがない限り、インターネットがあればどこでも仕事ができる環境でした。
ということで、会社のオフィスの外で働いているときは勤務時間の記録が特に重要。ということで、彼は、会社のサーバーに接続し作業している時間を自動的に算出し、記録するシステムを自作していたのです。
彼曰く、会社が元々使っていたシステムは、自己申告制で、特に外注業者が、作業時間を水増ししていたそうです。また、手入力していたので面倒くさかったとのこと。
彼の会社は、作業を全て会社のサーバーに接続し、サーバー内で作業をしていたので、サーバーの接続時間を直接時間ログとして記録することが可能という簡単な環境にあったと言う条件もありました。
しかし、彼は、新しいタイムカードのプログラムを・・・、しかも、経理部の負担も減ようにと、会社の給料システムとも直結させたシステムを、1日で作ったとのことです。
数ヶ月後、その一日で作ったシステムのおかげで、外注業者の水増し請求が減り、経理部の負担も減少。
結局は年間1千万円近くのコスト削減に貢献したとのことです!
彼曰く「簡単だったよ。俺の作ったソフト、誰でも書けるよ」
だそうです。
5年前のエピソードでした。
去年まで、私は、ただソフトウエアを使う人でした。
しかし、「concrete5」で使用しているプログラム言語、PHPは、結構簡単なプログラム言語です。
今まで、HTMLを使ってホームページ制作を指定た私にとっても始めやすいプログラム言語でした。
そうして、「concrete5」の日本語版開発を初めて1年。
この師匠の、「便利そうだから1日で作った」という、なんとも柔軟な姿勢は私の中でも生かされていると思います。
「concrete5日本語版、作れるんじゃない〜」と思ったのが最初です。
(とは言っても師匠のように一日で「concrete5」の日本語化を1人でできたわけではありません。Usagi Projectのメンバー一同の助けを借りてここまで来ることが出来ました。あと、元々アメリカで開発されているソフトなので、オリジナルではないですし・・・)
しかし、私の師匠に一歩近づいたかな〜と感じています。
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■ どの業界のパイオニアも『創り』続ける。それは映画業界も同じ
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また、私がこの「concrete5」日本語版開発をできるようになった理由は、私の映画制作の経験もあるかなと思います。
そして、上記の師匠と、映画制作には、以下の共通点があると思うのです。
「どの業界も、パイオニアは『創り』続ける」
ということです。
私の映画制作での、特技の1つが、サウンドです。
映画・テレビでのサウンド(音)は、実は結構、重要なのに、見逃されている要素の1つ。
しかし、私は、運良く、現場録音(ロケーションサウンド)に師匠と呼べる存在の人がおり、サウンド編集(MA)においても奇遇が重なって、十分な経験をつむことが出来、とあるプロダクション会社の社長さんから「Katzのサウンドセンスはハリウッドのインディー界で一番だ」と褒めていただくまでになりました。
そのきっかけとなった出来事が、ロケーションサウンドの師匠との、この経験からでした。
今では、ハリウッドのアカデミー会員となり、毎年オスカーのサウンド賞を決める一票を持っている私の師匠。
彼はあまり長編映画には働いていません。長編映画は撮影日は30日近く拘束されるので、主に、ミュージックビデオやCMなどの現場録音を手がけています。
彼が手がけた作品は、日本でもここ5年で、数十作品以上が公開・放映されています。
10年前の、ある日、彼に電話で呼ばれました。
「新しい事を始めたいから、ちょっと手助けして欲しい」
とのことです。
10年前、ミュージックビデオの撮影では「DAT」と呼ばれる業務用デジタルオーディオテープが使われていました。
DAT に、 CD からの音源を録音し、タイムコードを焼きこみます。
そして、ミュージックビデオを撮影する時、音楽が入った音声トラックをスピーカーから流し、タイムコードトラックを、 LED ディスプレイがついた、“カチンコ”と呼ばれる道具に送信します。

(そのサウンドの師匠に録音してもらった私のショートフィルムの撮影風景。写っているのが Digital Slate(カチンコ))
そうすると、編集するときに、そのカチンコに表示されたタイムコードで、このカットが曲の何分何秒の部分なのかが一発でわかるようになり、わざわざ1ショットごとにタイミングを合わせる必要がなく、効率化が図れたのです。
これを「プレイバック」と呼びます。
私が電話で呼ばれたのは、そのミュージックビデオ用の「プレイバック」を Mac のノートパソコンからやりたいので、パソコン購入のアドバイスをしてくれとのことでした。
師匠は、映画の現場録音に関してはプロでしたが、パソコンに関しては素人でした。
ということで、私が住んでいた West Los Angeles の近くに、プロの楽器屋さんがあり、そこで、PowerBook G4 というマックのノートパソコンと、 ProTools という映画業界では常識のサウンド編集ソフトを購入するのを手伝いました。
当時、ミュージックビデオのプレイバック用 DAT テープを作成(マスタリング)するためには、百万円近くの業務用機材を購入する必要がありました。
そういう機材を持てるのは中規模以上のスタジオのみ。 DAT テープを作成するために、専門のスタジオでマスタリングを頼む必要があったのです。
スタジオに行き、CDを提出し、作業を待って、完成したテープを取りに行くか、撮影場所に配達してもらう必要があるという、時間と手間も掛かっていました。
それを、私の師匠は、Macのノートパソコンと、ProToolsのソフト、40万円の設備投資で、同じことが出来るようになり、しかも、基本的にノートパソコンのセットなので、撮影現場でもマスターを作成出来るようになりました。
しかも、テープではなく、ハードディスクなので、テープを頭出しする必要もなくなり、待ち時間も激減。
今となっては、ミュージックビデオのプレイバックをしているプロは、誰でも、この方式を取っています。
しかし、私の師匠は、10年前、まだ、ハードディスクでのレコーディングがあまり信用されていない時代に、ノートパソコンを使ってプレイバックをするという“革命”をしました。
10年前の当時、 ProTools を購入していた楽器屋さんの店員さんに、私の師匠が一生懸命、自分がノートパソコンと、 ProTools のシステムを使ってやりたいことを説明していましたが、店員さんは何のことか全然わからず。
ProTools システムの公認販売アドバイザーにも関わらずです(苦笑)
当時、 ProTools は、ミュージシャンや、映画のサウンドを編集をしている人だけが使っていました。
ProTools のパソコンの屋内の音楽編集システムを、屋外に、しかも撮影現場に持っていくと考えつく人なんて、一人もいなかったのです。
ProTools のシステムは、屋内用だったので、屋外で電源を供給するには、100ボルトの電源を供給する必要がありました。
ということで、私の師匠は、システムの購入後、車のDC/ACコンバーターを取り付け、一日十分電源が持つように、12Vの大容量鉛バッテリーを大量に購入し、電源を安定的に供給出来る仕組みを作りました。
こんなこと、誰も教えてくれません。もちろん解説書なんてありません。私の師匠が、自分の今までの経験と将来のテクノロジーを見極め、積み上げて行ったものです。
10年後の今。
ハリウッドでのミュージックビデオの撮影シーンにおいて、 ProTools を使ったプレイバックをしている人はたくさんいます。
この10年の間に、ミュージックビデオのプレイバック用 DAT テープのマスタリングをしていたスタジオが全て潰れました。
マニアックなことですが、私の師匠が10年前に始めた、HDDプレイバックのおかげで、ロサンゼルスで、50人くらいの人が職を失ってしまいました。
反対に、私の師匠は、アカデミー協会の会員で、毎年アカデミー賞作品を投票している一人です。
今でも、彼の自宅に行くと、いろいろな新しい機材を見せてくれます。彼のサウンド録音機材のコレクションは数千万円規模になっています。
しかも、1本10万円するマイクを、ただ購入して使うのではなく、時には分解して、自分なりの改良を加えて使っています。
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■ 常に何かを自分で創っていき続ける
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ここで学んだことは、何事も、業界のフロンティアと呼ばれる人は、誰かが何かを創るのを待っているのではなく、常に何かを自分で創っていかなければいけないと言うことです。
あと、高い機材であっても、価格が高いからと恐れずに分解出来る勇気を持つことです(苦笑)
同じように、ハリウッドで働いている映画カメラマンは、なにかしら、自作の道具を持っています。
私も現場録音をしているとき、ミキサーや録音機材を乗せるサウンドカートを自分なりにカスタマイズしたり、XLRという音声ケーブルを自作したりしていました。
その最高の例が、ジェームズ・キャメロンです。
「アビス」や「ターミネーター」で、コンピュータグラフィックを次のレベルに導き、「タイタニック」でコンピューターグラフィックを、現実世界と分からないほどに進化させ、そして、今回の「アバター」で 3D 映画の撮影技術をパナソニックといっしょに開発しました。
しかも、技術だけではなく、きちんと売れるストーリーがあるんですよね。
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■ インターネットの世界でも起こりつつある変化
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同じようなことが、この「オープンソース」「concrete5」というソフトウエアで起こっています。
オープンソースという言葉が生まれたのは1998年。
そんなにたくさんの人は、この「オープンソース」の本当の意味を分かっていないひとが多いのが現状です。
そんな中、このオープンソースと言う文化、そして concrete5 というソフトを日本で普及することになり、私の今までの経験が、やっぱり繋がっているんだな〜と思うこの頃。
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■ 聞いているだけで終わっていませんか?
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今までの映画制作現場での経験と、「concrete5」のイベントで参加し、いろいろな人と出会ってきました。
いろいろな人と出会ってきた中で、はっきり言えること・・・。
この世の中には、
1. 自分で先を行こうと努力している人間と、
2. 他人任せや他人事ばかりな人間
の2つのタイプの人間がいます。
私のサウンドの師匠が、「1.自分で先を行こうと努力している人間」だとすると、潰れたスタジオは「2. 他人任せや他人事ばかりな人間」の集まりだったのでしょう。
誰もが言っていますが、今、世の中は、変革の時です。昔のように、年功序列社会であれば「2. 他人任せや他人事ばかりな人間」でもなんとか行けていましたが、今ではそうも行かなくなりました。
「1. 自分で先を行こうと努力している人間」になる必要があるでしょう。
ただ、私の師匠のように、10年待って大成するような者に数百万の設備投資をせよと言うのは酷なので、リスクの少ない、素晴らしい練習の場があります。
それが「オープンソース」の場や「ボランティア」です。
セミナーや、資格の通信講座ではダメです。
それは、他人が既に大成した経験や、既に規格化された資格を取るだけに過ぎません。「2. 他人任せや他人事ばかりな人間」のままです。
なので、インターネットで仕事をしている人、ウェブデザイナーさんなどは、オープンソフトの世界に入られることを確実におススメします。
特に、当 Usagi Project に入ると、私と一緒にソフトウエアを創っていけると言う特典があるのです!(宣伝かい!)
● Usagi Project メンバー募集
http://concrete5-japan.org/usagiproject/wanted/
2月14日、Usagi Project は無事に設立3周年を迎えました。
メンバー加入に、ソフトウエア開発の知識は必要ありません。
必要なのは、
・少しの時間
・ルールを守り
・自分で先を行こうと努力する
という気力のみ。
私がその証明です。
Usagi Projectには興味がなくても、他のソフトやオープンソースに興味があれば
是非とも
● オープンソースカンファレンス
http://www.ospn.jp/
などのイベントで、いろいろなオープンソースを知り、グループに参加してみるのもよし。
2月26〜27日は、東京で
http://www.ospn.jp/osc2010-spring/
3月13日には、神戸で
http://www.ospn.jp/osc2010-kobe/
開催されます。私も両イベントに参加する予定です(宣伝かい!)
私も、今でも、自分たちが作っているconcrete5や、MyNETSのみならず、Geeklog、OpenPNE、Joomla、WordPress、Drupal、Astariskなど、他のオープンソースソフトを使い分けています。
また、開発者になってことで、他のオープンソース・コミュニティーの方たちと交流の輪が広がり、そのネットワーク自体も今となっては大切な財産となりました。
なんたって、今まで見も知らずだった人たちと、知り合いになれましたからね。
もちろん、この中には、コンピュータなんか興味のない方もたくさんいらっしゃると思いますので、次に「ボランティア活動」をされることをおすすめします。
しかし、在り来たりのボランティア活動ではダメです。
自分が進んで行えるような、ボランティア活動です。
他人に言われてやり続けるボランティア活動ではダメです。
とにかく、自分で先を行こうと努力することを続けていける人になって欲しいなと思います。
と自分にも言い聞かせる。
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ロスと日本の映画とマーケティング日誌・アルケミスタの住人by Katz Ueno (株deerstudio)
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